届けたいひたむきさ届かない情熱

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 僕の士官学校の同期の真鍋、美波、僕の三人で同じレストランで一週間後に待ち合わせをした。しかし、美波は待ち合わせ時間を一時間過ぎても現れなかった。通信ゴーグルで何度も呼び掛けるも反応なし。事情をあらかた話しておいた真鍋は遠慮がちに僕に話し始める。 「なあ、葉山よ。その…なんだ。お前が目を掛けているその彼女はお前に迷惑を掛けたくないから、ここに現れないんじゃないか?」 「まさか。金を稼ぐためなら手段を選ばない女さ。大学の学費、向こうの言い値で払う生活費、おかしな見返りは求めない。こんな好条件があるか?しかも女子芸術大は大学の中でも金が特にかかる」 「まあな、お陰でうちは経営難さ。創業家の跡継ぎとして潰す訳にいかないからお前の申し出は渡りに船。だがな、彼女の方は資産家のお前に引け目を感じると同時に子供でもないのに世話を焼かれるのが鬱陶しいとか…」 「ああ…そういうことか…」 「住む世界が違うから連絡を絶った。そう考えるのが妥当だと思うがどうだ?」 「可能性としては一番高いな、確かに。彼女の知り合いと連絡が取れるから、気が変わったらいつでも言うように伝えて今回は引く」 「そうしとけ。ただの銭ゲバの女なら二つ返事だろうが、お前が言うほど悪い女でもなさそうだぞ」 「フッ…。それが向こうの手かもしれないけどな。遠慮して遠慮して最後にイエスと言う」 「わかってても引っ掛かるのか?」 「ああ。似てるんだ、昔好きだった女に少し」 「その女とは?」 「戦況が悪化し始めてアメリカに逃げたよ、一家で。うちとは桁も格も違う富豪だからな」 「帰国は?」 「していない。永住権を取ってそれきりさ」 「手が届かない物ばかり欲しがると大切な物をいつか失うぞ。これは同期として忠告だ」 「有難い忠告だがどうやら遅すぎたようだ。さっき美波と僕の住む世界が違うと言ったな?それならば…。美波がこちらに来る気がないのなら、僕が美波の住む世界に行けばいい」 「俺達のような戦わず戦争に負けた世代にありがちな話だな。叶わなかった戦いへの出陣を求めて非合法の闇に飛び込む。勝手にしろ。俺は感傷に浸らずに今を生きる。家と大学を潰す訳にはいかない」 「悪かった。空手ぶらで帰らせることになってすまない」 「いや、大丈夫さ。無鉄砲なお前が少しだけ羨ましくもある。そこまで覚悟出来る女か…羨ましいというより恐ろしい女だな。思う存分戦ってこいよ、俺の分までな」 「ああ。表で頼みにくい仕事を引き受けられるようになったら営業に行くさ、お前の所に」 「それは便利だな。名前がついたら不味い金でも政治家先生に運んで貰うか。助成金がもう少し欲しい」 「ふむ、なるほど。いつか裏金を届けてやる」 「名前のない金だ、言い方には気をつけろ」 「名前のない金か、物は言いようだな」 食事を済ませて真鍋と解散した後、僕は山猫組の三毛田組長のアポイントを取った。三日後の20時に前に会った日本料理の料亭。僕は山猫組の門を叩くことに決めた。
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