2、中学1年女子

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2、中学1年女子

 中学に入ったら、さちと剛史のクラスは別になってしまった。  中学生になった剛史はソフトテニス部に入った。さちは帰宅部だ。家に帰って勉強をする。心の奥底で剛史が入る都立の最難関校に自分も入ると決めていた。部活に入っている子がほとんどの中で、さちは授業が終わると一目散に家に帰る。当時のさちの成績では、剛史が余裕で入れる高校には入れない。  校門に向かう途中にラケットを振る剛史を見る。それが、さちの細やかな楽しみとなった。 なんとか気持ちだけでも伝えたい。いつしか、さちはそう思うようになった。剛史の目に見えるさちは、きっとモブだ。せめてモブから、「太田さち」という個人に昇格したい。そう思った。  剛史の誕生日は7月15日。それだけは知っていた。付き合っているわけでもない。バレンタインまで待てない。さちは剛史に手作りのバースデーカードを渡そうと思った。そうしたら、きっと『私の存在』に気づいてくれるだろうという淡い期待もあった。  剛史の誕生日当日、朝からドキドキした。バースデーカードはなかなか渡せなかった。昼休みも終わってしまって、剛史の誕生日の授業が終わった後、やっとの思いで剛史に声をかけカードを渡した。剛史は、驚いたようだった。驚いて「ありがとう」と剛史は言った。  でも、それをしたから、さちは小学校のクラスメイトから「太田さち」になれた。それからの剛史は、時々、さちの方を見るようになった。逆に、さちは剛史を見るのが怖くなってしまった。  どうせ、相手にはしてもらえない。直球で振られる。気持ちは多分伝わっているからそれでいい。さちは、自分が何を望んでいるのか全く分かっていなかった。
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