3、中学2年男子と女子

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3、中学2年男子と女子

 さちは、殆ど剛史を避けるようになってしまった。バレンタインが来ても勿論、剛史にチョコレートもあげなかった。剛史はモテる。カバンに入りきらないくらいのチョコレートを同級生はもちろん、上級生の女子からももらっていた。  剛史もさちも中学2年になった。さちは相変わらず帰宅部で勉強ばかりしていた。剛史は1年の3学期でソフトテニス部を辞めた。2年からサッカー部になった。  その頃から、剛史は変わった。少しグレ始めた。分かりやすく制服をだらしなく着て、髪が赤くなった。成績も下がり始めた。剛史の周りの友達が総入れ替えになった。  さちは剛史が好きだったけれど、だからと言って自分も髪を赤くする気は無かった。矛盾を感じてしまったのは、さちが最も嫌っていた人種に大好きな剛史がなってしまったことだ。 単純な「好き」と言う気持ちが単純ではなくなった。  さちは、その後の人生でも忘れられない場面に遭遇する。記憶は前後が曖昧だ。  雨が降っていた。何かの校外活動の帰りだった。150メートルぐらい前を剛史と悪い仲間が歩いていた。さちは、仲良しの佳代子とその後ろを歩いていた。150メートルの距離を保ったまま帰途を歩いていた。 剛史が前を歩いているのに、さちは気がついていた。突然、剛史たちのグループが立ち止まって屯し始めた。そこで、さちの足も止まった。それ以上、歩かなくなったさちに佳代子が訊いた。 「どうしたの?」 「………これ以上歩けない」絞り出すようにさちは言った。
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