4、近所の大学生

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4、近所の大学生

 剛史は、中3で勉強に本腰を入れて都立の最難関校に入学した。それでも、中学時代は立派に不良行為を行なっていた。 さちはさちで努力の限界まで頑張っても都立の最難関を受験することさえできなかった。高校生になっても、会えなくても高校で剛史よりも好きになる男子は現れなかった。  時々、あの傘の下での出来事を思い出していた。あの時、剛史たちの方に行っていたら……違っていたのかもしれない。 その想いは刻を重ねるごとに、さちの中に後悔にも似た気持ちを生み出した。 学校は離れてしまっても元々小学校の同級生なので、家の近くでバッタリ出くわすこともあった。さちが剛史のことを好きだったというのは絶対、剛史にバレている。でも「好き」と告白したわけではない。揶揄って来たら幾らでも切り返せる。  さちは至って強気を保っていたが、バッタリ出くわすと心臓が未だドキンとする。それが悔しかった。  さちの一重瞼の地味な容姿は、時と共に大化けした。一重瞼だが、顔のパーツは完璧な配置だった。 ほっそりとした体つきに和顔、手足が長く化粧をするとエキゾチックな感じがするようになった。さちは、自分に似合う身体の線に沿った服を好んで着るようになり、ハイヒールを履いた。 長い足が強調されるようにデザイナーズジーンズを履いて長い髪を下に下ろした。 みにくいアヒルの子は見事に白鳥になった。 実際にモテた。学内でも普通に歩いていても。でも、剛史に抱いたようなドキンは感じることがなかった。 大学時代、誰とも付き合わなかった。
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