7、雨上がりの先

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7、雨上がりの先

 さちがホテルのエントランスを出たら、いきなり腕を掴まれた。 「きゃっ」と声を上げて相手の顔を見たら、事務所の所長がさちの腕を掴んでいた。所長は40に手が届く冴ないおじさんだ。辛うじて髪の毛だけは恵まれている。 「ストーカーじゃないから。心配で見に来ただけ。ストーカーではない。管理責任を行使しただけ」 いい大人のおじさんが、必死に言い訳をしているのが、さちにはなんだか可笑しくて吹き出して大笑いをしてしまった。 笑われたおじさんの方はバツの悪そうな微妙な顔をした。  所長のことは2年前から知っている。独身だと聞いて「そうだろうなぁ」と妙に納得してしまった。見た目はともかく仕事については切れ者なのは、この2年でわかっている。  2年間も「事務所で一番偉いおじさん」だとしか思っていなかった。    それなのに、真剣な表情(かお)をしたおじさんを見たら、さちの心臓がドキリと音を立てた。
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