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「キャシー」  二階のキャシーの部屋に入って、おれは彼女の名を呼んだ。  返事はない。部屋のなかはがらんとしている。ベッドやクローゼット、机などが置かれたシンプルな部屋だ。 「キャシー」  おれは呼びながら、部屋のなかを歩きまわった。  机の上には、父親と兄と自分が写った写真が立ててあった。母親はずっと昔、別の男と家を出ていったと聞いている。  おれはクローゼットの戸をあけた。かわいらしい服がいっぱいぶらさがっていた。キャシーはいなかった。 「キャシー」  ここかな?  ベッドの下をのぞきこんだ。  ああ、いたいた。  ベッドの下に、窮屈(きゅうくつ)そうに隠れていた。暗がりのなかでも、金髪がきれいに光っている。  許嫁(いいなずけ)が来たからかくれんぼするなんて、なんてお茶目さんなんだろう。 「キャシー、きみの好きな薔薇(ばら)の花を持ってきたよ」  おれは花束と手に持ったものを、キャシーに見せた。  もちろん彼女はすなおにベッドの下から出てきたさ。
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