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突如視界が真っ黒になった。
「ちょ! もが!!」
猿轡をかまされ、手足を縛られ、荷物のようにどこかに放り込まれる。
エンジンを吹かす音と、揺れ具合から見て車の荷台のようだった。
叫ぼうにも叫べない。
いきなりすぎて頭の中がごちゃごちゃだった。
整理がつかない。
誘拐? 拉致? なんで? 私が可愛いJKだから?
何も悪いことしてないのに……。
お昼にこぼした牛乳を隣の席の人の体操服を拝借してこっそり拭いたことくらいだ。
梅雨でしばらく体育の授業がないからバレてない……はず。
バッと目隠しと猿轡を外されて、まばゆい光が目を刺す。
光り輝く大きなシャンデリアに、城かと見間違うほどの大広間……。
圧巻されて別の意味で声が出ない私に、玉座っぽい黄金の椅子に腰かけている誰かが言った。
「あなた、どうしてここに連れてこられたかわかっておりますか?」
尊大で、詰問するような口調のその人に、私はどこか見覚えがあるような、ないような……。
「えっと……お会いしたことありましたっけ??」
「なっ!! いつも学校で顔を合わせてるでしょうに! 忘れたのですか!? 私です! 隣の席の九条凜々花です!」
白いハンカチを噛んで悔しそうにする彼女は、どこぞのご令嬢のイメージそのものだ。
「九条、くじょう……あ、ああ~! はいはい、隣の席のりりかさんね、は、ははは……」
うわ~、クラスメイトにお金持ちがいるっては聞いたことあるけど……わっかんね、顔覚えるの苦手なんだよねぇ。
「適当に返事をしているでしょうあなた…」
ジト目を向けられ、どこか悪いことをしている気分になった。
まあ、よくよく考えると、目隠しに猿轡に手足縛られて拉致して……悪いことをしているのは向こうだよね☆
「あの、これ、解いてくれないかな?」
少し強めに告げると、彼女は傍にいたガタイの言い黒服の人間に「あれを」と何か指示。しばらくすると『九条』と書かれた体操服を持ってきた。
んん? なんか見覚えがあるような、ないような……。
彼女は体操服に鼻をよせスンスンと嗅ぐと、ひどく眉根を寄せた。
「くっせぇですわ~……。まるで牛乳をこぼした後に雑巾代わりに使われたみたいですの」
じろりとにらまれる私。
「…………おっふ」
視線を反らしながら思考が回転。
いやいやいやいや、そんな、ありえない。
だって、その程度の事で……ねぇ?
「ま、まさか九条……さん? 体操服を汚されたことが許せなくて私を拉致したとか……ないよね?」
お金持ちがそんなみみっちいことする? と言外に込めて恐る恐る伺う。
すると九条さんはにこりと微笑んだ。
「そうですか、その程度のことと」
「そうだよ! はは、あははは……」
九条さんの笑顔は崩れない。
彼女はぱちんと指を鳴らした。
「使用人たち。そこの罪人を地下牢へご案内ですわ~」
黒服でサングラスの使用人たちが私に再び目隠しと猿轡をしようと迫ってくる。
「地下牢って何!? ら、拉致監禁はれっきとした犯罪で! あ、あー! ごめんなさい反省してます! だから許して九条さぁああもがぁ!?」
再び私の視界は真っ黒になった。
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