上陸

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上陸

「ところで船長さん、バカンスに招待されたのは私たち二グループだけ?」酒井さんが尋ねる。 「聞こえねぇ! もう一度、大声で言ってくれ! 風の音であんたの声がよく聞こえない!」  酒井さんは困った顔をした。何が酒井さんを困らせている?  次の瞬間、僕は気づいた。酒井さんは上品な性格だ。そんな人は大声を出すのをためらって当然だ。代わりに僕が叫ぶ。 「バカンスに招待されたのって、僕たち二グループだけー?」 「おう、ようやく聞こえたぜ。いや、違うな。お前たちの前に二グループ、離島に運んでやった! 全部で四グループって聞いてるから、あんたらが最後だ!」  船長は風に負けじと叫ぶ。 「分かったー」僕は船長に手を振りながらお礼を言う。 「それにしても、助かったわ。なんで代わりに聞いてくれたの?」 「だって、酒井さんの性格的に、叫ぶの好きじゃないかなと思って」僕は答える。 「あなた、気が利くじゃない。それだけじゃなくて、相手の気持ちを察してとっさに行動するなんて、そう出来ることじゃないわ」  酒井さんにべた褒めされて、照れくさくなる。 「それは、少し違うような気がします。うーん、僕は空気を読むのがうまいというか、周りに流されやすいんです」 「あなたは、それを短所だと思っているのね? でも、短所も見方を変えれば立派な長所よ。自信を持ちなさいな」  酒井さんの言葉は説得力があった。これが、人生経験の差というやつか。
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