最後の晩餐

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「さあ、どこから話したものか……。そうじゃな、結論から言うかの。犯人はまだ事件を続けるつもりのようじゃ。それも今回のターゲットはずばり冬美さん、あなたじゃ」  冬美さんが悲鳴をあげる。 「ちょっと待った。なんでその婆さんが狙いだって言いきれる?」暁が疑問を呈する。 「それにはわしと諫早殿の発見がかかわっておる。端的に言おう。犯人がこだわっているのは事件を起こす場所のみではない。ことわざどおりに殺すのがもう一つの狙いじゃ」 「どういうことかしら。もっと具体的に言ってちょうだい」と薫さん。 「では、一例を挙げよう。さて、『春の間』での事件じゃが被害者は『暁春太郎』殿じゃ。そしてことわざは『春眠暁を覚えず』じゃったの? ここまではみなが知っているとおりじゃ。そしてわしらは気づいたのじゃ。暁殿は睡眠薬の過剰摂取で死ぬところじゃった。つまり、犯人はことわざの意味どおり暁殿を永遠の眠りすなわち死に追いやろうとしたわけじゃ。これで伝わったかの?」 「おいおい、ってことは今回のことわざのカードはその婆さんを『夏歌う者は冬泣く』のとおりに殺すっていう犯人からのメッセージってことか?」暁は信じられないという顔をしている。 「暁殿の言うとおりじゃ。さて、このことわざじゃが『夏に遊び暮らす者は、冬になって寒さと飢えに苦しむ』という意味じゃ。つまり犯人は冬美さんを寒さもしくは飢えで殺そうとしていることになるのう」  普段は上品な冬美さんもこのときばかりは取り乱していた。 「そんなの嘘よ。でたらめよ。誰かが犯人のふりをして、からかっているだわ。ねえ、そうでしょう、喜八郎さん?」 「こればかりはわしもなんとも言えん。犯人の犯行声明か誰かの質の悪いいたずらか。あえて選ぶなら前者になるかのう。今ここでわしが言うまで、ことわざどおりに事件が起きていることはみな知らなかったからのう。さて、これで説明は終わりじゃ。ここにきて守るべき対象が増えたわけじゃ。鍵を持っている諫早殿と次の犯行のターゲットとなった冬美さんじゃ。いずれにせよ、今晩は今まで以上に警戒せねばならん。みなは部屋に戻ったら、扉を何かで塞ぎ簡単に開かぬようにするのじゃ。よいな?」  最後の晩餐は僕たちに暗い影を落として終わった。 e9811da6-5ea1-49c7-ac22-013316ad61f0
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