脅迫

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脅迫

 暖かい日差しが僕を包み込む。まぶしさのあまり、まぶたを閉じていても明るいのが伝わってくる。そうか、朝なのか。朝? 僕はガバっと起き上がる。いつの間にか椅子の上で寝てしまっていた。すでに朝だった。時計を見ると朝の五時だ。すっかり太陽はのぼっていた。僕は扉の方を見やる。大丈夫、バリケードが破られたあとはない。寝落ちしてしまったのはまずかったが、結果的には犯人の強襲はなかった。寝てしまったのも無理もない。この三日間、緊張の連続だった。特に昨日、一昨日は。緊張で神経が参っていた。時には休息も必要だ。  僕は椅子から起き上がるとせっせと家具のバリケードを動かす。朝から重労働だ。額から汗がこぼれ落ちる。家具をどけきると扉が目の前に現れた。やっと外に出られる。扉を開けたときだった。目のはしに何かが映る。床を見ると白いカードが落ちていた。裏返すとこう書いてあった。「早く咲かば早く散る」と。このことわざの意味は「早熟な者は人生の下り坂にさしかかるのも早い」という意味だ。そしてわざわざ「」という字に赤い丸印が書かれている。僕の名前は「諫周平」だ。犯人はまたしても人物の名前に入っていることわざを使っている。 「おお、諫早殿、無事じゃったか」  喜八郎さんが廊下を歩いてこちらにやって来る。手元には白いカードが握られている。 「ほほう、諫早殿の部屋の前にもカードがあったようじゃな。どれどれ。『早く咲かば早く散る』か。確かに諫早殿はここ数日で大きく成長した。もちろん精神面でじゃ。それだけではない、『冷静に判断する力』と『観察力』のどちらも成長しつつある。もちろん、まだわしには届かんがな」喜八郎さんがウインクする。 「しかし、諫早殿はまだまだ成長途中じゃ。早熟というのはちと言い過ぎじゃな。まあ、犯人もそこまで考えてはなかろう」  僕は喜八郎さんが握ったカードを見る。 「さっき『殿』と言いましたね。つまり喜八郎さんの部屋の前にもあったんでしょう? 手元に持っているのはそれに違いない」僕は白いカードを指しながら言う。
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