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「ふむ、お見通しというわけじゃな。話を逸らす作戦は失敗したようじゃ。本当であれば見せたくないのじゃが、しかたあるまいて。覚悟するのじゃ。諫早殿のカードとは少し違うからの」
僕は深呼吸する。
「覚悟はできました」
「それでは見せるとするかの」
喜八郎さんは持っていたカードを裏返す。僕は思わず息をのんだ。そこには血文字でこう書かれていた。「喜んで尻餅をつく」と。
「あまりに得意になり過ぎて、失態を演じる」という意味だ。しかも、「喜」の字は赤い丸印がついている。喜八郎さんの名前は「大島喜八郎」だ。そして、ことざわの下にはこう殴り書きがされていた。「お前は真実に近づきすぎた。それは自身の破滅を呼ぶだろう」と。明らかに犯人からの脅迫だ。
「さて、わしら二人は犯人から要注意人物とみなされているようじゃな。裏を返せばこういうことになる。わしらは着実に犯人に近づいているということじゃ。犯人は焦りのあまり、脅迫をするしかなくなったのじゃ。さて、諫早殿。ここで引き返せば貴殿はまだ間に合うかもしれん。どうするかの?」
僕の回答は決まっていた。
「もちろん、喜八郎さんと一緒です。犯人を追い詰めます」
「ただ追い詰めるだけではダメじゃ。犯人に知られずに網をはらねばならん。そしてゆっくりと追い立てるのじゃ。問題はどうやって追い立てるか、じゃ。そもそも、追い立てようにもまだ犯人の見当がつかん。これが大きな問題じゃ」
そうなのだ。僕たちはまだ犯人が分かっていない。でも、犯人が脅さねばならないほどに近づいている。きっとあと一歩なのだ。その一歩が遠い。
「うーむ。あとはどうやって犯人を見つけるかじゃな。まずは朝食の場でわしらのカードをみなに見せて反応をみるかの。狡猾な犯人のことじゃ、これくらいでしっぽを出すとは思えんが、やらないよりはましじゃろうて。順番はもちろん諫早殿、そしてわしじゃ。良いかの?」
「ええ、もちろんです」
僕たちは二人で広間に向かった。犯人がいるであろう場所へ。
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