計略

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計略

 広間に着くと、僕たち二人以外はみんな集まっていた。 「遅いぞ、周平。あまりにも遅いから、何かあったんじゃないかと心配してたんだ」と暁。 「ごめん、ごめん。ちょっと朝の支度に時間が掛かっちゃって。今朝もみんな集まってるんだね」 「当たり前だろ。昨日、婆さんへの犯行声明の一件があったんだ。一人行動が危ないのはみんな痛いほど分かってるからな」  暁は冬美さんを顎でしゃくった。 「だよね。みんなピリピリしているところに申し訳ないんだけど、悪い知らせがあって……」  僕は喜八郎さんの隣に立つ。まるで大学の教授とそのアシスタントのようだ。僕と喜八郎さんがそれぞれ部屋の前にあった脅迫文を順番に見せた。「早く咲かば早く散る」、「喜んで尻餅をつく」。みんな一様に恐怖の表情を浮かべる。当然、犯人がこんなことでしっぽを出すはずがない。 「おい、それって二人に対する犯行声明じゃないか。それに二人には春夏秋冬のどの文字も入ってないぜ?」と草次さんが指摘する。 「そうなんだ。どうやら犯人は僕と喜八郎さんをマークしているみたい。季節の文字が入っているかにかかわらず、邪魔者は消すってことだと思う」  僕は素直に白状する。僕は嘘が苦手だ。ここは変に隠そうとすると失敗する、そう感じた。 「でも、今日は四日目、最終日よ? 漁船が迎えに来るのだから、これ以上の犯行は無理じゃないかしら」薫さんが異を唱える。 「そうよ、もう犯人には時間がないはずよ。ねえ、喜八郎さん、そうでしょう?」  冬美さんが半分願望を込めて喜八郎さんを見る。彼女は昨夜、犯行声明で名指しされている。当たり前の反応だった。 「そう簡単にいくか、わしにも分からん。こればかりは犯人次第じゃ。それに犯行声明を受け取ったのはわしら二人だけではない。無用な混乱を避けるためにも、みなには隠しておきたかったのじゃが状況が状況じゃ。やむを得ない。諫早殿、例のものをみなに渡すのじゃ」
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