計略

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「みなの手元にあるのは、犯人が置いていった脅迫状じゃ。わしと諫早殿が今朝早く起きてみなの部屋の前から回収しておいたのじゃ。無用な心配をかけたくなかったのじゃ」 「こ、これは、つまり、あれか、俺への脅迫状じゃないか!」  磯部さんは気も狂わんばかりだった。頭を抱えている。当たり前だ。  磯部さんだけじゃない、みんなの間に混乱と不安、動揺と恐怖が広がる。 「なんで相棒と婆さんの前にはカードがないんだ?」草次さんが疑問を呈する。 「推測じゃが、すでにことわざで犯行あるいは犯行声明をしておるからじゃろう。さて、わしと諫早殿以外のみなにもカードがあったということは、警告ではなく混乱を招くのが目的とみて問題なかろう。恐らく別々にカードを見ておれば恐怖のあまり混乱したじゃろうが、こうして同時に見たことで自分だけじゃないと分かって、少しは衝撃が緩和されたと思う」喜八郎さんは続ける。 「犯人の思惑は再び疑心暗鬼にするのが目的じゃった。すでに冬美さんが指摘したように、犯人には時間がない。わしらは制限時間まで逃げ切れば勝ちじゃ」  喜八郎さんの言葉でみんなの間に安堵が広がる。そのときだった。 「ちょいと待った」草次さんが勢いよく挙手する。 「俺は神経が高ぶっていて朝早くから――午前三時を朝と言えるか分からないが――廊下を歩いていたんだ。言いたいことはわかるよな? 俺が起きたときにはカードがなかった。つまり、そのカードは出所が不明だってことだ!」  草次さんの発言に広間が凍りついた。 「それってどういうこと、草次?」由美子さんが説明を求める。 「つまり、このカードは恐らく周平とそこの爺さんが犯人をあぶりだそうと仕掛けた罠ってことだ。きっと犯人が脅迫状を置いたのは二人の部屋だけだ。それをみんなの部屋の前にもあったとすることで、犯人の動揺を誘おうとしたんだろう」  草次さんが僕たちを見つつ言う。 「で、お二人さん、結果はどうだった? カードが配られた時に言わなかったのは、二人の作戦を理解したからだ。すぐに否定しちゃあ、水の泡だからな」  まさか、こうも早く見破られるとは思ってなかった。僕たちの考えが浅はかだった。一連の流れの中で怪しい行動をした人はいなかった。喜八郎さんを見ると首を横に振っている。 「なるほど、収穫はゼロか。犯人の方が一枚上手だったってことだ」草次さんが冷静に言う。 「おい、相棒。二人のしたことは俺たちの信頼関係を崩しかねないものだぜ。そんなあっさり許していいのかよ」暁が憤慨する。 「ええ、その通りよ。いくら喜八郎さんの作戦でも、今回ばかりは看過できないわ」冬美さんは続く。 「俺は二人を許しちゃあいない。事が事だからな。でも、俺の方がみんなに引け目があったからだ。これを見て欲しい」  草次さんが懐から取り出したの紙片をテーブルに置く。それは――犯人からのメッセージカードだった。 323834ce-84a1-4c5d-a5ff-952d62204b37
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