季節は巡りて

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 四つの事件を通すと犯人が計画性を持って犯行を重ねているのが分かる。各事件では返り血を浴びないように事前準備を怠らないし、荒木さんの事件に至っては彼の行動を把握している。これらをみるに、犯人はこのバカンスの主催者の可能性が高まる。  一方で腑に落ちないのは最後の事件、「秋の間」での事件だ。この事件では犯人はかなり運に頼っている。なにせ暁、天馬さん、秋吉さんが三人一組で行動していた。天馬さんと秋吉さんが二人きりで「秋の間」にこもった時は別だが。その時のことがどうも引っかかる。なぜ、秋吉さんが天馬さんと二人きりになることを望んだのか。そこに事件の鍵があるような気がする。素人の直感だけど。 「ねえ、天馬さん、『秋の間』でのこと、詳しく聞かせて」  天馬さんは部屋の隅っこにポツンと座っていた。わざわざ椅子をテーブルから話しているところを考えると、広間に潜んでいるかもしれない犯人を恐れているように見える。 「なぁに」言葉には抑揚がなく、心ここにあらずといった感じだ。 「嫌なことを思い出させて申し訳ないんだけど、『秋の間』で起こったことを詳しく知りたくて。秋吉さん――お父さん――と二人きりになった時のことなんだけど」  うつろな目がこちらを見る。 「僕が分かることなら。それで何が知りたいの」 「二人きりになった時、お父さんとどんな話をしたの?」  ストレートに聞いてみる。天馬さんは目を伏せて首を横に振る。 「僕はすぐに気を失ったんだ。話をする間もなかった。でも一つ言えることは、お父さんがこっちに駆け寄って来てからの意識がないんだ。ただ、なんでなのかは分からない。病気で倒れそうだったからなのか、別の理由があったのか。もう聞くこともできないけれど……。これが僕が答えられることのすべてさ」  相変わらず天馬さんの答えはぼんやりとしていた。でも一歩前進した。秋吉さんが駆け寄って来てからの記憶がないのだ。すぐに気を失ったわけではない。そこには微妙な差しかないが。  ふと横を見るといつの間にか喜八郎さんが立っていた。きっと天馬さんとの会話を聞いていたに違いない。 「さて、諫早殿。いくつか質問じゃ。『夏の間』での事件の前後のことじゃ。みなで季節の間を巡っている間に、誰か途中で抜け出したりしなかったかの」  僕は夏央が忘れ物をとりに戻ったこと、暁がトイレに行ったことなどを手短に伝える。 「ほほう。とても興味深い話じゃった。礼を言わせてもらうかのう」  喜八郎さんは満足げな表情をしていた。
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