犯人は――

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「まあまあ、二人とも落ち着くのじゃ。さて、釣部殿が天馬殿の意識を奪ったところまで話は進んだの。では、誰が釣部殿を殺すことが可能か。他のグループはみな団体行動しておりアリバイがあるし、二人きりになったことも、もちろん知らぬ。この状況下で犯行が可能なのは――暁殿ただ一人じゃよ」  広間を静寂が包んだ。誰一人として喜八郎さんの言葉を信じていないのだ。かく言う僕も同じだ。暁が犯人? まさか。 「おい、爺さん、おとなしく話を聞いていれば勝手に犯人扱いしやがって!」  暁が憤慨する。僕だって同じだ。友人を犯人呼ばわりされてカチンときた。 「喜八郎さん、いくらなんでも話が突飛すぎます。第一、暁には秋吉さんを殺したという物的証拠がありません」僕はきつい口調で反論する。 「確かに物的証拠はない、それは認めよう。じゃがのシャーロック・ホームズの言葉を借りるとするかの。『すべての不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる』じゃ。つまり、消去法じゃ」  喜八郎さんは言い終えると目を閉じる。次の言葉を探しているようだった。 「みなもご存じのとおり、『秋の間』には辞書が二冊あったの。あれもうまく説明ができるのじゃ。一つは『秋の日は釣瓶落とし』じゃ。これはみなも知ってのとおり、ことわざに見立てて釣部殿が殺されておる。では、『高く肥ゆる』はどうか。秋原天馬殿の名前には天、馬、そして秋の字が入っておる。気づいた者もおるじゃろう。このことわざは天馬殿を指しておるのじゃ。つまり、『秋の間』で殺されるのは天馬殿のはずじゃった」  喜八郎さんは一呼吸おく。 「これで釣部殿が天馬殿と二人きりになった理由も明白になったのう。釣部殿は天馬殿の殺害をもくろんでおったのじゃ。恐らくもう一個のことわざ『天高く馬肥ゆる秋』になぞらえて、天馬殿を絞殺したのちに梁からロープで吊るす予定だったと思う」  喜八郎さんのたどり着いた真相は信じがたく、悪夢でも見ているかのようだった。
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