解決

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「くそじじい、それも俺が犯人という前提に基づいての話だ。俺が釣部の爺さんと共犯関係にあったって証拠はあるのか?」  暁は椅子から立ち上がると、テーブルに手をついて喜八郎さんをにらみつける。その目つきは獲物を狙う肉食動物のように鋭かった。 「ふむ、当然の質問じゃ。結果から言おう。証拠はない」 「ちょっと待ってください。じゃあ僕たちは喜八郎さんの推測を長々と聞かされていたのですか!? 納得がいきません!」   「周平の言うとおりだ。結局は年寄りのたわごとを聞かされていたわけか! 相棒を犯人扱いした挙句、証拠がないときた。時間の無駄だったな。ばかばかしい。さあ、とっとと昼食にしようぜ」 「諫早殿も草次殿もなにか勘違いをしておるようじゃ。わしはこう言ったはずじゃ。『』と。なにも『』とは言っておらん」 「その言葉に差はないだろ。単なる言葉遊びに過ぎない」暁が冷たく言い放つ。 「大きな違いじゃよ、暁殿。証拠とは物的証拠、つまり指紋や返り血の類じゃ。警察が犯人を名指しするときに使う方法じゃ。わしが言う根拠とは『』じゃ。決して勘や当てずっぽうではない。これが二つの大きな差じゃ」  喜八郎さんは頭を指でトントンと叩く。 「さて、最後は荒木殿の事件じゃな。これについては三日目の夜中から明け方にかけて犯行が行われておる。もちろん、誰にもアリバイはない。では、誰が荒木殿を亡き者にしたのか。ここまでくれば、みなもある程度察しがついておろう。暁殿か釣部殿じゃ。そのほかの者には、荒木殿を殺す動機はない。では、なぜ二人は荒木殿を殺す必要があったのか。それに彼はワインセラーで殺されておる。季節の間ではない。ここが重要じゃ」 「でも、喜八郎さん、わざわざ荒木さんを殺す必要なんてあるのかしら。私にはさらに危険を冒しているようにしか感じられないわ。だってそうでしょう? 事件を起こせば起こすほど、犯人が誰かバレる可能性が高まるのよ?」  冬美さんの言うとおりだ。僕にもリスクしかみえない。 「ふむ、当然の疑問じゃな。では、荒木殿を殺すことで何が得られるかが問題じゃな。さて、もし荒木殿が殺されていなかったら、どうなるじゃろうか。考えてみるのじゃ。荒木殿を探す理由がない以上、わざわざグループ行動をして探す必要がなくなるの。そうなれば、『秋の間』で天馬殿を殺すきっかけがなくのうてしまう。そこが重要なのじゃ。荒木殿を殺した理由の一つは『秋の間』に天馬殿を誘導し、現場に『ことわざ辞典』を置くことで、あたかも連続殺人犯が天馬殿を殺めたかのようにするためじゃ」  喜八郎さんはテーブルに置かれたコップから水を飲む。長時間しゃべっているのだ、のどが渇いて当然だ。
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