解決

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「さらに荒木殿殺害にはもう一つのメリットがある。荒木殿が行方不明になることで、どこかに隠れてわしらを襲おうと企んでいるのではないかと、恐怖心を植え付けることが可能じゃ。これにより、わしらに荒木殿を探す動機ができるわけじゃ。一石二鳥じゃな。さらに補足するならワインセラーで殺したのにも理由があるのじゃ。もちろん『春の間』や『夏の間』は封鎖されておる。『秋の間』を犯行現場にするのじゃから、天馬殿に荒木殿を見つけられるのは論外じゃ。ではなぜ『冬の間』ではないのか。荒木殿の名前には春夏秋冬のどの文字も入っておらん。彼の名前は荒木敬二じゃ。もし彼が『冬の間』で見つかれば、犯人がことわざに執着しているというわしらの思い込みがなくのうてしまう。今までの積み重ねが一瞬にして無駄になってしまうのじゃ」  僕は愕然とした。そんな理由で人を殺すことなんてあるのだろうか。  ふと暁を見やると、さっきまでの勢いはどこにいったのか、かなり大人しくしている。僕は喜八郎さんに対して暁が反論するのを期待していた。黙っていては自分が犯人だということを受け入れることを意味するのだから。 「では、荒木殿殺害を釣部殿か暁殿のどちらが実行したかじゃ。わしの考えでは暁殿じゃと思う。この一連の事件は共犯者同士が強く結託せねば成り立たない。それにもし『夏の間』で釣部殿が夏央嬢を殺したあとに暁殿が裏切ってしまっては、『秋の間』で天馬殿を殺すことができなくなってしまう。ここは暁殿が荒木殿を殺すことで自分は裏切らないということを証明したのじゃろう。恐らく最初から二人の中ではそう決まっておったのじゃろう。暁殿はかなり静かじゃのう。なにか反論があってもおかしくないはずじゃが」  喜八郎さんが暁に話をふる。暁、反論するなら今だ。喜八郎さんの推理をぶち壊してくれ。僕は心の中で祈る。 「……年寄りも馬鹿にはできないな。その爺さんの言うとおりだ。何もかも合ってやがる。まるで事件現場にいたかのような正確さだ。俺に反論の余地はない」  暁の口からこぼれ出たのは僕がもっとも聞きたくない言葉だった。
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