絶望と希望

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 学友を二人失うだけではない。一人の学友は僕が牢獄へ送ったようなものだ。僕が「秋の間」で二冊の「ことわざ辞典」を発見していなければ、事件は迷宮入りしたかもしれない。    そして、僕のスマホには「春の間」を含めた事件現場の写真が収まっている。ポケットに入ったスマホがずっしりと重く感じる。思わずスマホを海に投げ捨てたい衝動に駆られる。しかし、スマホを捨てたところで事件が起きた事実は消えない。現場は厳重に保存されている。警察が調べれば、あっという間に事件の全貌を暴くだろう。それにこのスマホには夏央との思い出の写真もつまっている。 「諫早殿には思うところがたくさんあるじゃろう。しかし、貴殿はこの数日で精神的に大きく成長しておる。時間はかかろうが、必ずや乗り越える日が来るじゃろう。貴殿に一つ言葉を贈らせてもらおうかの。『冬来たりなば春遠からじ』じゃ。今は大変辛かろう。しかし、これを耐えれば必ずや幸せな時期は来るのじゃ。まずは、この忌々しい館に別れを告げるとしようかの」  喜八郎さんの言葉で僕は振り返って館を見る。この四日間に色々なことがあった。草次さんたちとの何気ない雑談、盛り上がった晩餐会。決して悪いことばかりの連続ではなかった。いい思い出もあるのだ。僕は今回の悲劇の連続を乗り越えようとも、この数日間を忘れてはならない。 「おーい、お二人さん、早くこっちに来なー」船長が僕たち二人を呼んでいる。いつの間にかみんなは乗船していたらしい。  僕は船に向かって歩き出した。明けない夜はない。いつか明るい未来が来ると信じて。
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