離島

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「館までご案内いたします。こちらへどうぞ」  荒木さんの案内に従って歩く。館は立派に違いない。島の大きさからも期待できるし、館までの道は石畳で舗装されていた。石畳は年季が入っている。 「これから皆さんをご案内する館は少し変わっております」 「どこが変わっているのかしら?」と酒井さん。 「皆さん、このバカンスに応募時の条件を思い出してください」 「確か『姓名いずれかに春・夏・秋・冬の文字が入っていること』だったよな? まあ、誰かさんに勝手に応募されてたけどな」  夏央はまだ根に持っているらしい。まあ、無理もない。 「さようでございます。その条件には理由があります。館には、『春の間』、『夏の間』、『秋の間』、『冬の間』という、四つの間がございます。それにちなんで、そのような応募条件が付けられたのです」 「なるほど。して、荒木殿、あとどれくらい歩くのかの? この炎天下の中、これ以上歩くのは老体には厳しいわい」  太陽は無慈悲に僕たちを照り付けている。漁船の時はこんなに暑く感じなかった。恐らく風のおかげだったに違いない。 「もうすぐ見えてまいります」  そう答える荒木さんも黒いタキシードのせいか、額から汗が滝のように流れ落ちている。
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