容疑者 諫早周平

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容疑者 諫早周平

「あなたが犯行時間に何をしていたのか、話してもらえますか」  マンションの管理室。僕はそこで刑事に事情聴取を受けていた。 「僕は自室にこもって、小説を書いていました」 「つまり、アリバイはないわけだ」  刑事が鋭い目つきでにらんでくる。アリバイがない以上、容疑者となってしまう。仕方がないことだが、隣室で殺人があったがために貴重な執筆時間が削られていく。そんなことを考えていると、ノックの音がした。 「あの、諫早さんに来客がありまして……」  管理人が部屋に入るなり言う。 「今は事件の調査中だ。事情を伝えて帰ってもらえ」 「待ってください。今回の事件に関係する人です」  嘘だ。現時点では事件と何も関係がない。しかし、今回の事件を解決してくれるであろう人物だ。 「ちょっと失礼」  断りを入れると杖をついた老人が入ってくる。 「おい、許可なく入ってくるな!」 「待ってました!」 「ふむ、諫早殿はどうやら事件を呼ぶ何かを持っておるようじゃ」  入口に立っていたのは、僕の救世主・喜八郎さんだった。
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