容疑者 諫早周平

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「さて、現場に着いたわけじゃが、どういう状況じゃ?」  刑事を見るが、説明を始める気配はない。どうやら僕から話すしかなさそうだ。 「簡単に言うとフランス人の女性が僕の隣室で殺されたんです。鋭利な刃物で刺されたようです。凶器は現場から持ち去られ、遺体のそばに被害者が書いた血文字がありました。『mer』と書かれています。ほら、あそこです」  遺体のそばの鮮血で書かれた文字を指し示す。見るだけでめまいがしそうな光景だ。 「第一発見者は彼女の母です。ほら、あそこにいるでしょう? それから、被害者には恋人がいて、これまた被害者の隣室に住んでいます。事件当時、エレベーターは点検中で、作業員によると階段を使った人物はいないとのことです。唯一の出入り口は突き当りにある螺旋階段です。外に通じています」  一息にしゃべると喜八郎さんの様子を見る。 「つまり、容疑者は僕と母親、恋人の三人です」 「ふん、警察がこれだけ時間をかけても分らんのだ。その老人に解けるとは思えんが」
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