離島

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 しばらく歩くと、館の上部が木々の間からちらちら見えはじめた。  外観は洋風にも見えるし、和風にも見える。知識のない僕には、よく分からない。 「和洋折衷建築か。中々立派なもんじゃないか」  磯部さんが目を細めて言う。僕よりかなり建築に詳しいに違いない。建物にも和洋折衷があるなんて知らなかった。和洋折衷といえば料理しか思い浮かばない。反射的によだれが出てくる。違う違う、料理じゃなくて建物だ。  僕はよっぽど、あほ面をしていたに違いない。磯部さんが僕を見て説明を続ける。 「和洋折衷建築はな、幕末の横浜にルーツがあるんだ。明治維新後に各地に広まってな、有名どころで言うとそうだな、1882年に建てられた『第一国立銀行本店』なんかだな。小僧、知ってるか?」 「いえ、初めて知りました。とても博識なんですね」僕は素直に感心した。やっぱり、年長者だけあって知識が豊富だ。 「まあな。小僧はもう少し勉強すべきだな。世界は広いぞ。『井の中の蛙大海を知らず』ではいかんぞ」  磯部さんがそう言った時だった。荒木さんがムッとした表情で言った。 「それは間違いでございます。『第一国立銀行本店』が建てられたのは『1872年』でございます」 「それはお前の記憶間違いだろう。俺が言うんだ、間違いない!」  磯部さんは火山が爆発したかのように大声で言い返す。怒りのあまり胸をそらしているので、アロハシャツのボタンがはち切れんばかりだ。 「それはあり得ません。私は執事をする前は、建築業界におりました。自信がございます」  普段は冷静そうな荒木さんがここまで取り乱すのは珍しいに違いない。このままでは二人の言い争いは納まりそうにもない。その時だった。 「その執事さんの方が正しいぜ! 『第一国立銀行本店が竣工したのは、1872年の6月である』。今の時代、ネットっていう便利なものがあるんだぜ」  暁はスマホを水戸黄門の印籠のように突きつけた。 「それは、その、えーとだな……つまり、誰にでも間違いはあるってことだ」  磯部さんはしどろもどろに言った。酒井さんが「いつものことよ」と僕の耳元でささやいた。そんなことをしているうちに、館にたどり着いた。  
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