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「おいおい、オレたちを差し置いて自己紹介とはなんて奴だ。こういうものは年功序列だろ!」  向こうから、白髪のおじいさんドスドスと大きな足音をたててやって来た。僕は音に敏感なので、その歩き方にはいい印象を持たなかった。 「オレは釣部秋吉(つるべあきよし)だ。そっちの一番年上は誰だ? 先にそいつに挨拶せにゃならん」 「釣部殿、わしじゃよ。大島喜八郎じゃ」  釣部さんは大島さんを胡散臭そうに見返す。 「確かに、一番年上なのはこいつですが、三人の中でリーダー的なのは俺だ」  磯部さんが進み出る。酒井さんの言葉を思い出す。あれ、リーダー的なのも大島さんじゃなかったっけ。 「ほう。お前がそっちのリーダーか」  あれ、釣部って苗字どこかで聞き覚えがあるぞ。 「釣部ってことは、もしかしてあの『釣部グループ』の釣部さんですか?」磯部さんが尋ねる。 「ほほう。オレのことを知っているとはな。そうオレは釣部グループの社長、釣部秋吉だ。お前ら一般庶民とは違うんだよ」  かなり偉ぶった口調だ。上から目線で気にくわない。僕はすでに釣部さんが嫌いになった。こんな短時間で人を嫌いになるなどそうそうない。 「やはりそうですか。こんなところでお会いできるとは、光栄です、釣部社長」と磯部さん。かなり感激した様子だ。 「まあな。こっちは俺の妻、(かおる)だ。」  薫さんはダイヤモンドの指輪をつけていて、さすが社長の奥さんだと思った。社長夫人であっても、傲慢な感じはない。釣部さんとは真逆でつつましい。立ち振る舞いも上品だった。 「そして我が家の恥、息子の秋原天馬(あきはらてんま)だ」  秋原さんは色白で病弱そうに見えた。あれ、苗字が違う。 「ど、どうも、秋原天馬です……。よ、よろしくお願いします……」まごつきながら言う。 「あれ、息子さんの苗字が違うようだけど」酒井さんが僕の代弁をしてくれた。
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