発端

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 僕は潮風に吹かれながら思った。夏に離島でバカンスとはなんという幸運。暁には足を向けて寝れないぞ。 「おーい、周平ぼっけとすんな。もうすぐ島に着くぞ、早く来ーい」  遠くから僕を呼ぶ声が聞こえる。風のせいでハッキリとは分からないが、口調からして暁だろう。振り向くと案の定、暁が僕に向かって手を振っている。彼のはおっている水色のTシャツが風になびく。さっそく恩人のお出ましだ。彼は恩人である前に、一人の学友だ。僕はもたれかかっていた欄干から離れる。 「まったく、最近の若者は、この風情ある景色を楽しむこともできんのか……」  暁の方へ向かう途中で老人がつぶやいた。明らかに僕へ向けられた言葉だ。  最初に会った時から、この老人とは馬があいそうになかった。いまさら気にしても無駄だ。 「今行くよー」  僕はそう言うと暁のいる舳先へと歩き出した。この先に待っているバカンスに胸を躍らせながら。
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