春の間

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「まあ、諫早殿の言うとおりじゃ。それにせっかくの名画をけなす必要はあるまいて」  大島さんの援護射撃が利いたのか、酒井さんは黙った。そうか。そもそも、酒井さんは大声が出せないほど、上品な人だ。人と争うのはないに等しい。大島さんは――喜八郎さんは人心を把握するのもうまい。実際なれるかは別として、こんな大人になりたいと思った。少なくとも、磯部さんや釣部さんのようになるのはごめんだ。それに酒井さん――冬美さんのように上品になることはできないだろう。でも、争いごとを好まない点では気が合いそうだ。 「さて、皆さま『春の間』をご堪能いただけましたでしょうか?」 「芸術には疎いけどよ、まあ、きれいなのは分かったよ」と夏央。 「では、次の『夏の間』にご案内いたします」
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