晩餐会

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「皆様、大変お待たせいたしました」  そう言う荒木さんの後ろには中年の知らない女性がおり、配膳ワゴンを押している。 「ご紹介が遅れました。彼女はメイドの三日月京子(みかづききょうこ)さんです。当館の料理と清掃を担当しております」  紹介された三日月さんは会釈すると、淡々と配膳を始める。愛想がいいとは言えない。  夕食はステーキにローストビーフなど洋食がメインだった。建物は和洋折衷だが、料理は違うらしい。  三日月さんがワインやソフトドリンクを配り終えると、秋吉さんが「うちにあるワインの方がおいしいに決まっておる」などと自慢げに言った。せっかくおいしい料理が目の前にあるのに、興醒めだ。  晩餐会は大いに盛り上がった。グループをごちゃ混ぜにしたのは大正解だった。人見知りの僕はかなり緊張していたし、会話が弾む自信がなかった。しかし、杞憂だった。 「そういえば、周平は読書が趣味なんだよな? 夕食の前に書庫に行ったぐらいだ」と草次さん。 「うん。いろいろな本を読まなきゃ、小説家にはなれそうにないし」 「へえ、将来の夢は小説家か。じゃあ、今のうちにサインをもらっておくべきか? 周平が小説家になれば自慢できるしな」 「相棒、それなら俺は学友だったことを自慢できるぜ。なんなら、勉強ができない周平にノートを貸して助けてやったことにしてもいい」草次さんの反対隣の暁が言う。  いくらバレないからって、でたらめを言ってもらっては困る。逆に僕が暁に勉強を教えているのだ。 「あら、素敵な夢じゃない。もし小説が出版されてサイン会が開かれたら、私ももらいに行こうかしら」隣の薫さんが会話に混ざってくる。 「釣部グループの社長夫人がわざわざサイン会に出向く必要はないだろ。周平にサイン本を送らせればいい」  確かに草次さんの言うとおりだ。 「草次さん、それじゃあダメなのよ。自分で行くことに意義があるのよ。私は普段の料理だって自分でするわ。なんでも人任せはダメよ」  薫さんは何事も自分でするのがモットーで、メイドも必要以上に雇わないと続けた。社長夫人なのに偉ぶった態度ではなく、かつ庶民的な感覚の持ち主で好印象だった。
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