晩餐会

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「草次さんの趣味はなんですか? 小説家になれるとも限らないし、社会人の休日を知っておきたいんです」  小説家になれるのは一握りの天才だ。僕にはそこまでの才能はない。努力である程度補えるかもしれないが。 「おいおい、今からそんな弱気でどうする。気持ちが後ろ向きじゃあ、結果だついてこないぞ。まあいい。小説家になるならいろいろと知識があって損はないだろうな。俺の趣味は化石発掘だ。近所にいい地層があって、アマチュアでも発掘が出来るんだ。もちろん、恐竜が絶滅したあとの地層だけど。化石には漢の夢とロマンがつまっているからな」草次さんの目はキラキラと輝いていた。  アマチュアでも化石発掘ができるのは意外だった。学者しかできないイメージだったのだ。 「なるほどな。相棒の手にある派手な傷跡の謎が解けたぜ。うっかりハンマーを自分の手にぶつけたんだろ?」と暁。  暁のいうとおり草次さんの手の甲には大きな打撲痕と痛々しい傷跡があった。傷の感じからして、まだまだ最近のものだろう。 「そうなんだ、かなり痛かったぜ。幸いにも骨折までには至らなかったが」  草次さんが手を大袈裟に振りながら答える。  それを聞いて僕は身震いした。人の怪我などの痛い話を聞くと、その光景を想像してしまう。そして、自分が体験したかのように感じるのだ。今回の場合は無意識のうちに自分の手の甲をさすっていた。でも、それも悪いことばかりではない。想像力が豊かなのは小説家を目指す僕にとって一つの武器と言える。 「そういう相棒はサーフィンが趣味だったな。八月は台風シーズンだろ? 天候に左右される趣味だから、思い通りにならないことも多いんじゃないか?」  草次さんの言うことは的を得ていた。屋内の趣味じゃないから当然だ。 「そう思うだろ? 別に夏にしかできないわけじゃあない。九月なんかも意外といけるぜ。まあ、最近は十月まで台風が来るし、困っているんだけどな」と暁。  僕はふとあることに気がついた。 「そういえば、夏央は陸上部所属だから、暁と夏央は海と陸、正反対の場所でのスポーツだね」 「そうなるな。面白い着眼点だ。なあ、そう思うだろ夏央?」暁は夏央に呼びかける。 「そうだな!」由美子さんと話し込んでいた夏央が答える。  遠くに座っている夏央に今の会話が聞こえていたとは思えない。生返事に違いない。
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