談笑

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 草次さんと由美子さんのやり取りを聞きながらぼんやりと考える。由美子さんは、暁が「死」のカードを引いた時もポジティブにとらえていた。今回もそうに違いない。それにしても希望がないなんて、ひどい意味を持ったカードもあるんだな。草次さんの未来のカード「星」と真逆だ。絶望。僕は暗い気持ちになった。 「そういえば、由美子自身は占ってなかったよな。俺が占うよ」草次さんは由美子さんからタロットを受け取るとシャッフルする。手品師なみの見事さだ。鮮やかで思わず身惚れてしまう。 「さあ、由美子のカードはこれだ!」  過去から順番に椅子に座った女性、恋人、星だった。現在と未来のカードはものの見事に草次さんと被っている。 「さて、由美子の過去は、っと。なあ、このカードってどんな意味があるんだ?」  僕は思わずずっこける。 「ちょっと、自分が占うって言っときながら、私に頼るんじゃ意味ないじゃない。それは『女司祭』のカードね。意味としては、無意識の気づき、潜在能力や神秘ってことよ」 「なるほどな。じゃあ由美子はタロット占いの神秘さにハマったってところか? で、現在と未来のカードは俺と同じだな。つまり、俺たちは結ばれる運命にあるってことだ」  かなり強引に解釈している。過去のカードの「女司祭」は影も形もない。 「なあ、由美子。差し支えなければタロット貸してくれないか? 興味が湧いたから、自分でもやってみたくなったんだ。どうだい?」 「ええ問題ないわ。夏央さんが興味を持ってくれて嬉しいわ。タロット占い仲間が増えるかもしれないし」  夕食前の占いの反応を見るに、仮に夏央がタロット占いにのめり込んでも、適当な占いをするに違いないと僕は踏んだ。少なくとも夏央に占ってもらうのはごめんだ。「死」のカードが出たら、「あなたは近い将来死にます」だけにとどまらず「それも苦しい死に方でしょう」なんて言いそうだ。タロット占いは占い師の解釈次第とはいえ、オブラートに包んで言うべきだろう。 「げ、もうこんな時間かよ」夏央が手首の内側にある腕時計を見て言う。  もう十時過ぎだった。お風呂の時間も考えると、これ以上談笑する猶予はなさそうだ。 「ひとまず今日は解散だな。まだ日にちもあるし、明日以降ゆっくり語り合おうぜ」  暁の言葉を受けて僕たちは各自の部屋に戻っていった。
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