発端

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「やったぞ、やった!」  暁の右手にはハガキが、左手には新聞の切り抜きと思われる紙片が見てとれる。どうせ新聞の懸賞に当たったとかだろう。それに暁はいつもオーバーに振る舞う。  今度もたいした話ではないだろう。夏央も同意見なのか、暁に冷たい視線を向けている。 「おい、二人ともノーリアクションかよ。そりゃないぜ」 「どうせ、懸賞に当たったとかだろ? それとも競馬で万馬券でも当てたの?」  夏央の考えは至極当然だった。  暁は懸賞や賭け事が大好きだ。暁は夏休みの旅行に向けてバイトでせっせと稼いだお金を倍にすると言って、競馬で大負けしている。  彼は負けず嫌いだから、どんどん勝負するも、あえなく撃沈。本人には賭け事に向いていないという自覚がないらしい。  これも僕たちが旅行を断念せざるを得なかった理由の一つだ。 「そんなちゃちなもんじゃない。いいからこれを見ろよ!」  暁は自信満々に新聞の紙片を差し出した。 「なになに。『抽選で離島にご招待! 夏は優雅なバカンスを』。で?」  夏央はそれがどうしたと言わんばかりだ。 「それにさ、これ条件がついてるよ。『条件:姓名いずれかに春・夏・秋・冬のいずれかの文字が入っていること』。それに締め切りが六月だ。もう今は八月だよ……」僕は指摘した。 「さあ、これを見たまえ」  暁がこれ見よがしにハガキを机に置いた。
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