悲劇の幕開け

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 その後のことはあまり記憶にない。僕らの後からみんなが部屋に駆け寄ってきたのは覚えている。 「さて、ひとまず暁さんは一命を取り留めたわけだけど……」由美子さんがみんなをにらめつけている。 「これはいたずらですまないことよ! 下手したら暁さんは死んでいたわ」 「おい、さっきから黙って話を聞いていれば、まるでオレたちの中に犯人がいるみたいじゃないか。それに素人のお前が仕切るのも、気に食わん!」  秋吉さんがつばを飛ばしながらわめく。 「ちょっと待ってください。由美子は看護師です! 緊急時はプロの言うとおりにしてもらいたい!」草次が割って入る。  僕は由美子さんのテキパキとした指示に納得した。おっとりしていたので、意外だった。 「だがね」磯部さんが続ける。 「犯人が我々の中にいるとは限らん。その小僧の自殺未遂の可能性もある!」 「ええ、そのとおりよ。こればかりは暁さんが目を覚ますのを待つしかないわ」 「じゃが、本職である由美子嬢がいたことは幸いじゃった。一般人では回復退位をとらせることは、思いつかん。ざっくりで構わない、いつくらいに目を覚ましそうかの?」 「そうね……あまり自信はないけれど、一時間後くらいかしら」由美子さんは喜八郎さんの問いに答える。 「では、それまでに今できることをするべきじゃ」喜八郎さんは静かに言った。 「荒木殿、固定電話はどこにあるのかの? まずは、救急と警察に通報じゃ」 「そんな必要ないぜ! スマホを使えばいい」夏央が提案する。 「そうじゃった、便利なものがあるのを失念しておった……。これじゃから、時代に置いていかれるわけじゃ」喜八郎さんは額に手をやりつつ言った。 「救急は百十九だな。任せとけ! ……って、おい。ここ圏外になってるぞ!」  夏央をの叫びに僕は異をとなえる。 「待って、そんなはずないよ。だって、この館にくる途中で暁が使っていたじゃん。ほら、なんだっけ……そう、和洋折衷建築の話のとき!」  館への道中で磯部さんと荒木さんが言い争っていたときのことを思い出す。暁がネットで調べて一件落着したあの時だ。 「でも、つながらないのが現実だぜ」夏央が口をとがらせて不満げに言う。 「荒木殿、この島はかなり陸から離れておるが、どのように通信手段を確保しているのじゃ?」 「この島に専用のパラボラアンテナがございます」荒木さんは淡々と答える。 「携帯電話も固定電話も同じです」 「つまり、我々は外部との通信手段を絶たれたわけじゃ」  あたりを沈黙が包み込んだ。 0fdae6a0-c9b4-4d83-8c1f-3c6866b793f3
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