救護室での推理

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 もう一人可能性がある人物がいる。それは秋吉さんだ。彼と暁は朝食の場でかなり派手に言い争いをしている。暁は釣部さんに対してかなり挑発的な物言いだった。しかし、いくらプライドの高い秋吉さんといえど、あの時の復讐としてこんな事件を起こすだろうか。  では、凶器の面からアプローチしてはどうだろうか。睡眠薬なんてものは、すぐに用意できる代物ではない。つまり、犯人は計画的に殺すつもりだった可能性も高い。  そして一番の疑問は、なぜ犯人が凶器を現場に放置したかだ。もし仮に――そうならないことを祈るが――次の犯行を実行するのなら、凶器を手放すのは不自然だ。他の手段があるのだろうか。ただ、確実なのは瓶に指紋がついていないということだ。帰りの漁船が到着すれば、警察もすぐにやって来る。当然、指紋検査をするはずだ。犯人は手袋をしていたに違いない。  由美子さんも犯人候補にあがる。彼女は看護師だ。仕事柄、睡眠薬を入手しやすい。しかし、彼女が犯人であるとは考えにくい。もし犯人なら、暁を助けるのにあそこまで必死になるだろうか。  僕はすべての人に疑いを持ち始めた。これでは他の人と同じだ。頭を振りかぶる。僕たちは一致団結して犯人を捜さなければならない。疑心暗鬼していては犯人の思う壺だ。 「それにしてもよ、不意をついたとは言え暁をねじ伏せたんだ。力のある男の可能性が高いぜ」  夏央は違う角度から犯人像を考えているようだ。夏央の考えも一理ある。 「その場合、疑わしいのは草次さんや執事の荒木さん、釣部さんに磯部さんといったところだな」 「相棒は絶対に違う。……いや、そう信じたい」  暁は弱々しく言う。最後の言葉は願望だった。
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