「死」のカード

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広間に行くと人はまばらだった。  磯部さんに秋吉さん、天馬さんに薫さんの姿がない。 「みんな、『次は自分の番かもしれない』って思っているみたい。まあ、当然の結果だわ」  僕の考えを察したのか冬美さんがため息まじりに言う。 「昼食は自分の部屋で食べるらしいわ。荒木さんと三日月さんがわざわざ個室まで運んだのよ。釣部さんなんかは『毒が混じっているかもしれない』と言って、天馬さんに毒見させたらしいわ。そうよね、荒木さん」 「さようでございます。さすがに私も止めようとしたのですが……」 「それって、私を疑っているのかしら。失礼な人だわ」メイドの三日月さんがムスッとした顔で言う。 「ところで相棒、具合はどうだ」 「ぼちぼちってところだな。さすがにまだ全快とは言えないが」と暁。 「まあ、後遺症もなさそうで安心したぜ。なっ、由美子」 「そうね……でも、しばらくは要観察よ。すぐに後遺症が現れるとは限らないわ。それにしても犯人が睡眠薬を現場に置いていったのは助かるわ。次に誰かが襲われたら、助けられる保証はないもの」 「そこなんだよなぁ、腑に落ちないのは。だって、自らの首を絞めるようなもんだぜ。警察が調べたら、犯人が誰かはすぐに分かるぜ。それとも、犯人はよっぽどの間抜けなのかもしれないな」草次さんはそう言うと、あたりを見渡す。  すぐに草次さんの意図が分かった。ここにいるかもしれない犯人を挑発しようとしているのだ。しかし、誰もそれらしい反応をしない。無実なのか、それとも個室にこもっている人が犯人なのか。あるいはかなりの演技者なのか。いずれにせよ、草次さんの作戦は失敗に終わった。しばらくの間、沈黙が続いた。
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