気分転換

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気分転換

「さて、手荷物検査の結果はどうじゃったかの?」  女性陣を代表して冬美さんが答える。 「収穫なしよ。そもそも女性が物騒なものを旅行に持ち込むわけないわ」 「それもそうじゃな。こちらも、これといった収穫はなしじゃ。当たり前じゃが、わしは剃刀を持ってきておる。他の男性陣は電動式シェーバーじゃ。わしの剃刀は必要なとき以外はどこかに鍵でもつけて閉まっておくのが無難じゃろう。さて、どこにしまうとするかのう」 「大島様、キッチンに包丁等の刃物がございます。それらと一緒にしまうのは、いかがでしょうか」荒木さんが即座に反応する。 「荒木殿、助かるわい。そうなると誰が鍵の番をするかが問題じゃが……」 「私と荒木さんでどうですか。ツーロックになっています。それぞれが鍵を持てば、そう簡単には開けられません」三日月さんが提案する。相変わらずムスっとしている。 「確かに包丁を使うのは三日月さんだけじゃ。それが妥当じゃろう」 「さて、これで打てる手は打ったわけだ。後は事件が起きないことを祈るぜ」と夏央。 「夏央待てよ、それは早計だぜ。ここにいない人が危険物を持っている可能性も考慮すべきだ」暁の指摘は的を得ていた。 「そこまで考えていなかった」夏央はピシャリと額を叩く。 「まあ、諦めるしかないんじゃないかな。部屋にこもった人たちの分は。特に秋吉さんは、そんな話題を出したらカンカンに怒るんじゃないかな」僕は諦観していた。 「わしもそう思う。これ以上刺激して、逆上されてはかなわん」  僕たちは出来るだけのことをすると、昼食をとり始めた。「春の間」の事件後ということもあり、あまりおいしく感じなかった。
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