気分転換

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「夕食は十九時でございます。皆さんはご自由にお過ごしください。もちろん『春の間』は鍵がかかっておりますので、ご承知おきください。これにて失礼いたします」荒木さんは一礼すると広間を去った。 「さて、どうする? やっぱり固まって行動するのが無難だよな?」 「相棒の言うとおりだな。でも、ずっと同じ場所じゃあ気分が滅入るから、館の中でもぶらつこうぜ」暁が提案する。 「周平、まさか書庫に行くとか言い出さないよな?」暁が念を押してくる。 「さすがにそれはしないよ。一人じゃ危なすぎるし。それでどこに行くの?」 「残りの間でも見てまわろうぜ。俺は『夏の間』がお気に入りだしよ」と暁。 「そういえば、あの部屋の油絵を気に入ってたよな。サーフィンが好きなんだろ? 俺は賛成だな」 「私も賛成だわ。もう一度『秋の間』の紅葉が見たいわ」由美子さんも同意する。  こうして、暁と夏央、草次さんに由美子さんと一緒に季節の間を見てまわることになった。  「夏の間」に着くと見事な油絵が視界に入る。緻密に書き上げられたさざ波は今にも動き出しそうだ。 「しかし、何度見ても飽きないぜ」  中央にある椅子に腰かけながら、暁が言う。 「この絵を見ていると、相棒を見習ってサーフィンを始めたくなったぞ」  テーブルを挟んで向かいに座っている草次さんが言った。 「それはサーフィン仲間が増えて嬉しいな」 「まあ、無事にこの島を出られたらの話だが……」草次さんは悪い方に進むのではないかと懸念しているらしい。 「しけたこと言うなよ。事件が続くとは限らないぜ。俺以外に被害者は出て欲しくない」 「海の絵を前にして『しけたこと言うなよ』ね。海の悪天候の『時化』とかけているのか?」と草次さん。 「まさか! 俺はそんなつまらないジョークは言わないぞ」暁が即座に否定する。 「本当か? それとも場を明るくするためにわざと言ったのか?」と夏央。 「夏央、そういうことにしておいてくれ。これ以上、触れないでくれ……」  暁は珍しく恥ずかし気な表情をしてうつむく。なんにせよ、みんなが事件を忘れつつあるのはいい傾向だ。 「おい、夏央。今落とし物したぞ」暁は何かを拾いつつ言う。 「うん?」  夏央は怪訝な表情を浮かべながら受け取る。しかし、それは一瞬だった。 「ああ、暁助かったよ。大事なものを無くすところだった」ポケットにつっこみつつ言う。 「盛り上がっているところ悪いけれど、そろそろ『秋の間』へ行かない? もう一度あそこの鮮やかな紅葉を見たいわ」と由美子さん。 「由美子の言うとおりだな。さあ、次行こうぜ、次」
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