捜索

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捜索

 「秋の間」は相変わらず幻想的だった。 「やっぱり、ここの絵は素敵だわ。誰かさんは『血の色みたい』なんて表現していたけれど」由美子さんが草次さんの方を見ながら言う。 「じゃあ、他にいい表現があるか?」 「そうね……夕焼けみたいな朱色なんてどうかしら」と由美子さん。 「なるほど、いいな。相棒の例えは物騒だったしな」暁がうなずく。 「冬美さんに『もっと詩的な表現をしろ』なんて言ってた暁が何言っているんだか」  僕はあきれた。 「でもよ、草次の表現も嫌いじゃないぜ。ストレートで素人にも分かりやすい」夏央がとんでもないことを言い出す。  読書が趣味の僕からすれば、「血の色みたい」はいただけない。由美子さんの表現の方がしっくりときた。彼女には文才があるに違いない。  「秋の間」をじっくり堪能すると、「冬の間」へ向かう。その途中だった。夏央がポケットをまざぐりだす。   「げ、忘れ物した。先行ってろ!」言い終わると同時に夏央は駆け出した。 「おい、一人は危ないぞ。俺がついて行く」暁が後を追おうとする。 「心配するなって。すぐに追いつくから」 「そこまで言うなら……でも、気をつけろよ」暁は引き下がる。
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