捜索

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 「冬の間」に着くと富士山の絶景が再び僕たちを迎えた。 「それにしても、こんな状況下で一人行動するなんて、よっぽど大事なものを忘れたのかなぁ」僕は疑問に思った。 「スマホでも忘れたんじゃないか? 夏央の奴、スマホ依存症だからな」と暁。   「でもよ相棒、スマホを探しにいくのなら、俺たちがついて行っても問題なさそうだぜ。それに多かれ少なかれ俺たちはスマホに依存しているんだ。有名人なんかSNSでエゴサしている人もいるくらいだ」草次さんが続ける。 「特に今どきの若い人なんかは顕著だな」 「ちょっと、私たちがもう若くないみたいな言い方じゃない。なんか年寄りくさい発言ね」由美子さんが口をとがらす。 「悪かったな。でも、事実だろ」  険悪な雰囲気になり始めた。このままでは二人が喧嘩しそうだ。   「まあまあ、落ち着いてよ。ほら、目の前の富士山の絵を見れば、そんな小さなこと忘れるよ」  僕は慌てて話を逸らした。  「冬の間」を出たときだった。今度は暁だった。 「わりぃ、トイレ行ってくるわ。先に広間に行ってくれ。すぐに戻る」  止める間もなく暁が走り出した。 「今度は暁か……。一人行動が危ないってこと、忘れるはずないのに。なんで僕の友人はこうも自由人が多いのかな……」 「まあ、相棒のことだ、大丈夫だろ。『春の間』の一件もあって、人一倍警戒するだろうし」  草次さんは暁に全幅の信頼を寄せているらしい。楽観的な答えが返ってきた。何も起こらなければいいのだけれど。
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