「塔」のカード

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「提案よろしいでしょうか」薫さんが手を挙げる。 「なんなりと」 「証拠の撮影ですが、一つの証拠を順々に撮っていく方がいいのではないでしょうか。ばらばらに撮ろうとすれば、他の人が撮影する前に犯人が証拠を隠滅できますから」 「ナイスアイディアじゃ。それでいこうかの」  最初は夏央の遺体だった。直視する勇気はない。 「諫早殿、暁殿は撮らん方が良い。これ以上、トラウマを増やす必要はない」  僕らは素直に従った。仮に写真を撮った場合、それはスマホの写真一覧に残る。今後、写真一覧を見るたびに今回の事件を思い出してしまい、トラウマはより深刻なものになるに違いない。もちろん、他の証拠写真もこの島を無事に出て、警察に写真を提供したらすぐにでも消したい。 「さて、次は遺体周辺の物的証拠じゃな。まず、手始めにこの紙切れじゃな」  喜八郎さんが杖で指した紙片は、火によってほとんど焼けていた。かろうじて数文字が残っている。 「『…夏……で……た。……』? さすがに何が書いてあったのかは読み取れないな」草次さんがじれったそうに言う。 「夏……夏と言えば『夏央』か『夏の間』かしら? 草次、それ以外に何か思いつく?」  草次さんは由美子さんの問いに首を振る。  僕もそのどちらかだと思った。 「次はこれじゃ」  喜八郎さんは燃え切った棒とライターを指す。 「凶器だな。問題はどっちが死因かだな。殴打か焼死か」 「僕は焼死だと思うな。さっき誰かが言っていたけれど、わざわざ椅子に縛り付けているから」  磯部さんの言葉に天馬さんが応じる。 「凶器とセットでコートも撮った方がいいんじゃないか?」と暁。 「そうじゃな、暁殿の言うとおりじゃ。その方が分かりやすかろう」 「続いてこれかの」  喜八郎さんが床一面に散らばったタロットカードを見て言う。由美子さんが夏央に貸したものだ。大半が焼け焦げていたが、かろうじて残っているものもある。  
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