「塔」のカード

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 タロットカードを撮っているときだった。ふと一枚のカードが目に入る。それは「塔」のカードだった。カードの図柄を改めて見た。塔に雷が落ち、人々が転落している。そして、雷によって「火事が起きている」。まさに、この部屋の状態とそっくりだ。 「私の占い、外れればよかったのに……」由美子さんがつぶやく。  偶然とはいえ由美子さんの占いが当たってしまった。彼女は責任感を感じているに違いない。 「偶然だよ、偶然。気にする必要ないって」僕は慰める。 「違うわ、今回だけじゃないの。『春の間』の一件もそうよ」 「由美子さん、落ち着いて。確かに暁の未来は『死』のカードだったけど、そうはならなかった。そうでしょ?」  自分で言いつつ、説得力のなさを感じていた。あの一件も占いが当たっていても、おかしくはなかったのだ。暁はかろうじて死ななかったものの、由美子さんの適切な処置がなければどうなっていたか分からない。 「由美子、そう思い詰めるな」草次さんが背中をさすりつつ、慰めた。 「最後はこれかの」  またしても、現場には開かれた辞書が置かれていた。スプリンクラーの水でびしょ濡れになりうねっているが、文字はかろうじて読める。犯人が何をしたいのか分からないが、何かしらの意図があるに違いない。しかし、それが分かれば苦労しない。  だが、「春の間」で見たものと何か共通点があるように感じた。辞書が開かれて置いてあるのはもちろん、それ以外にもどこかに共通点がある。でも、それが分からない。もう少しで分かりそうなのに。じれったい。 「辞書が部屋の隅に置かれているのが気になるわ。明らかに故意よ」冬美さんが指摘する。 「冬美さんの言うとおりじゃな。犯人は辞書に固執しておる。何かのメッセージだとは思うのじゃが……」 「辞書、辞書……相棒、何か思い浮かぶか?」暁が草次さんに話をふる。 「さっぱりだ」草次さんは肩をすくめる。 「ひとまず、意図については置いておくほかあるまいて。さて、残りは窓や扉周りじゃな」  窓や扉周りを見たが、これといって気になるところはなかった。
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