三度、書庫へ

1/1
前へ
/138ページ
次へ

三度、書庫へ

 僕たちの目の前に広がっていたのは、無造作に床に落ちた多数の本だった。 「ちくしょう、やられた!」草次さんがうめく。  犯人の方が一枚上手だった。先を越された。 「おい周平、しっかりしろ。まだ辞書のコーナーまでダメとは限らないだろ!」  暁が僕を揺さぶる。 「そ、そうだ。まだ希望はある」  僕は螺旋階段へ急ぐ。散らかった本のせいで歩きづらい。隙間を見つけては慎重に歩く。ようやく辞書コーナーにたどり着く。しかし、遅かった。辞書コーナーも全滅していた。 「くそ、ダメだったか……」 「なあ、相棒。これってまずくないか?」と暁。 「どうまずいんだ?」草次さんは頭を抱えている。 「辞書コーナーを徹底的に荒らされた。これで俺たちには『辞書が何冊なくなったのか』が分からないってことだ」 「暁、それってまさか……」 「周平、そのまさか、だ。この様子から察するに犯人はまだ事件を起こすつもりだ。当然、辞書を現場に置くだろう。するとどうなる? 何冊なくなったのか分からない以上、事件が起きるのは一件だけとは限らないわけだ」 「でも、それって犯人にとって裏目にもでないかな? だって犯人は辞書を――何冊か分からないけど――持っているはずだよ。つまり、手荷物検査をすればどうだろう?」 「周平の言うとおりだな。ダメもとで手荷物検査を提案するか」草次さんは立ち直りつつあった。 「そうとなれば、とっとと広間に行くぞ! 『善は急げ』だ」  僕たちは広間に向けて走りだした。
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加