広間にて

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 手荷物検査は失敗に終わった。犯人は手元に辞書を持っておくほど、馬鹿ではない。恐らくどこかに隠し持っているに違いない。隠しておくなら身近なところに違いない。だが、みんなの部屋を探しても誰も辞書を持っている人はいなかった。 「おい、朝食はまだか、朝食は!」秋吉さんがドンドンとテーブルを叩きながら怒鳴り散らかす。まるで自分が責められているような感覚に陥る。  腕時計で時間を確認すると、もう朝の七時を越している。確かに遅い。いつもなら執事の荒木さんとメイドの三日月さんが配膳ワゴンとともにやって来る時間だ。それに、空腹では頭が回らず、推理もできない。何かをお腹に入れなくては。  少し待っても、二人がやって来る気配は一向にしない。何かがおかしい。荒木さんは時間にルーズなタイプには見えない。正確な時計のような人だ。それとも、三日月さんが料理に手間取っているのだろうか?  更に待つと、ついに磯部さんの怒りが爆発した。 「客をなんだと思ってるんだ! 朝食を早く出さんか、早く! 姿を出さない主催者といい、客への態度がなっておらん!」  今回ばかりは磯部さんの意見に賛成だった。 「なあ、一回キッチンへ様子を見に行かないか? もし料理に手間取っているなら、由美子が手伝えばいい」 「ちょっと、草次。提案しておきながら人任せなんて! 自分が料理できないだけじゃない!」  とうとう草次さんと由美子さんまで喧嘩しだした。無理もない。みんな二日間のイライラと緊張感に参っているのだ。 「相棒、由美子さん、そこまでにしておけ。二人の未来は『星』だろ? 希望の象徴なんだろ? タロット占いを思い出せ。不吉な結果だけ当たって、いい結果が外れるなんてごめんだぜ」  暁らしからぬセリフだ。普段は自由奔放な暁もさすがに空気を読んだのか、おとなしい。 「悪かったよ、由美子」 「私こそ、ごめんなさい。取り乱して恥ずかしい姿を見せちゃったわ……」うつむきながら由美子さんが言う。
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