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「おーい、こっち、こっち」  どこからか呼び声が聞こえる。声の方へ目をむけると、遠くで豆粒のような大きさに見える人がこちらに向かって手を振っている。暁か夏央のどちらかに違いない。  近づくとすらりとした長身に小麦色の肌の人物が見えてきた。間違いなく夏央だ。オリーブグリーンの帽子をかぶっている。僕は急いで旅行の準備をするあまり、帽子を持っていくという最重要事項を忘れていた。夏に帽子なしは致命的だ。その点、夏央はしっかりとしている。 「良かったよ。集合場所が分からなくて困ってたんだ」  そう言う夏央も僕と同じく額から汗が流れている。 「ということは、夏央もどのレンガ倉庫が集合場所か分からないの?」 「そりゃあ、こんだけあるんだ。分かりっこないさ」夏央は肩をすくめる。  僕の淡い期待は粉々に砕け散った。迷子が一人から二人に増えただけだ。 「なあ、猛暑日とはいえ、暑すぎないか? 汗だくだくだよ」  夏央はそう言うとTシャツをたくしあげようとする。 「ちょっと待った。向こうで着替えてよ」  僕はそう言って倉庫の反対側を指す。 「悪い。そうさせてもらうよ」  しばらくすると夏央が戻ってきた。グレーのシャツに短パンといったいで立ちだ。 「僕は向こうからここまで歩いてきたんだけど、暁の姿はなかったんだ。夏央はどっから来たの?」  夏央は親指を立てて後ろを指す。陸側だ。つまり最悪の場合、半月状の港の残り半分を歩く可能性がある。  腕時計を見ると出発まであと三十分といったところか。早歩きをすれば間に合うだろう。 「少し走るか」  夏央はそう言うが早いか、海岸沿いを走りだす。 「ちょっと、速いよ!」  夏央は陸上部だから足は速いし、体力もある。それに比べて僕はいわゆる帰宅部だ。 「あ、そっか。ごめん、ごめん」  夏央は走るのをやめた。だが相変わらず早いペースで歩いている。このままでは、僕の体力が持つか分からない。勘弁してくれと思いながら、僕は必死に夏央を追いかけた。
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