広間にて

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「まあ、なんにせよキッチンに行かなけりゃ、話は進まなそうだな。さて、みんなで――」  次の瞬間だった。キッチンの扉を開けて三日月さんがやって来る。荒木さんの姿は見当たらない。 「おいおい、心配かけさせやがって。何をしていたんだ?」と暁。 「遅れてしまい、申し訳ございません。今から朝食をお配りいたします」  そう言うと、三日月さんはテキパキと動き出す。なぜ遅くなったのか、説明は一切ない。 「ねえ、荒木さんは? いつもは荒木さんと一緒に来るでしょ?」僕は思ったことをそのまま尋ねる。   「どこにいるのか分かりません。あの人がいなかったせいで、時間感覚が狂ってしまいました。いつも時間に正確な人でえすから」  僕の問いに三日月さんは仏頂面で答える。 「なあ、執事まで姿を消すなんてまずくないか? もう事件はごめんだぜ?」と暁。 「相棒の言うとおりだ。荒木さんを探すべきだ。もしかしたら、手遅れかもしれないが――」  草次さんがそう言ったときだった。薫さんが二人の会話に割り込む。 「ねえ、あの執事さんが姿を見せないのは被害者だからじゃなくて、犯人だからじゃないかしら。どちらかの事件、もしかしたら両方かもしれないけど。それなら筋は通るはずよ」 「でも、仮に執事さんが犯人だとして、姿を隠しても私たちがグループで行動していれば向こうは手出しできないはずよ。それか何か逃亡手段を用意していたかもしれないけれど」と冬美さん。 「冬美さん、それはないじゃろう。荒木殿が犯人だとしても、移動手段は限られておる。この島へ上陸するには船しかない。そして、船を安全に乗りつけられるのは、この島唯一の桟橋しかない。わしらが島に到着したとき、他に船はなかった。漁船が来るのも明日の夕刻じゃ。隠れたとしても警察が来ればすぐに捕まってしまう。わしは荒木殿が事件に巻き込まれたとみる方がしっくりくるがの」 「そうと決まれば荒木さんを探すしかないですね。でも、どうやって探しましょうか。やっぱりグループ行動ですよね?」僕は念の為確認する。 「諫早殿の言うとおりじゃ。グループ行動は絶対条件じゃ。問題はどう決めるかじゃが……」 「そんなことに時間を割いている暇はないだろ。おい、小僧、天馬、オレについて来い!」  秋吉さんが勝手にグループを決めだす。暁も天馬さんも不意を突かれて言葉が出ない。秋吉さんが天馬さんを指名したのは意外だった。秋吉さんは天馬さんを嫌っているからだ。 「薫はそこの小娘と若造と一緒だ」 「つまり由美子嬢と草次殿じゃな」 「残りは五人だ。二人行動は危ないから、そっちは五人で動け! 以上、解散だ!」  秋吉さんはそう言うと嵐のように去っていった。 「天馬さん、気をつけるのよ」 「うん」 「暁さん、天馬さんのことをお願いします。あの人、すぐに暴力で解決しようとするから」 「分かりました。腕っぷしは俺の方が上です。もしものときは、なんとかしますよ。手加減は出来ませんけど」暁は薫さんの願いに応じる。 「ふむ、グループが決まったのは良いが、肝心な探す場所の分担を決めずに行ってしまったわい。釣部殿は『秋の間』へ向かったようじゃから、わしらは別の場所にするとしよう。薫さんたちは『冬の間』をお願いできますかな?」   「ええ、お安い御用よ。でも、そちらのグループはどこを探すのかしら?」 「三日月さんが一番この館に詳しいはずじゃ。『秋の間』、『冬の間』以外を探すわい」 「分かったわ。お互い気をつけましょう。荒木さんを見つけたら、広間に集合よ」  こうして、僕らは荒木さんを探しに別れた。
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