75人が本棚に入れています
本棚に追加
キッチンに着くと、調理具の数々が目に入る。もちろん、包丁の類は鍵がかかった場所に入れてある。もし仮に荒木さんが犯人でも、刃物を凶器にはできない。鍵はツーロックで、荒木さんと三日月さんが一つずつ持っている。しかし、油断はならない。誰が犯人にせよ、「夏の間」の事件ではライターを使っている。身近にある物での犯行の可能性が高い。
「キッチンにも見当たらないわね。あとはワインセラーだけど、どうかしら」と冬美さん。
「でもよ、他のグループが見つけている可能性もあるぞ」磯部さんは楽観的だ。
「それを祈るかの。思ったよりワインセラーは大きいのぉ。この館にふさわしい大きさじゃ。諫早殿、すまんが扉を開けてくれんかの」
扉はかなりドッシリと鎮座している。年配の方に開けられる感じはしない。
「もちろんです。後ろに下がってください。せーのっ」
渾身の力で扉を開ける。重い。何とか開けきる。
「さあ、若造はどきな」
磯部さんは僕を押しのけると中に飛び込む。僕は危うく転倒しそうになったが、なんとかこらえる。これだから磯部さんは好きになれない。
「ふん、中々の品揃えだな。悪くはない。執事探しが終わったら、いいのを一本開けるか」
僕たちはワインセラーの通路を手分けして探す。
「こっちにはいないわね」
「こっちにもいないのぉ」
その時だった。磯部さんが何かを蹴り飛ばした。それは割れたワインボトルだった。ワインボトルの横に何かがある。
「おい、これって、まさか……うわああぁぁああ」
ワインボトルの横にあったのは――倒れ込んだ荒木さんだった。
あたりには赤ワインがまるで鮮血のように飛び散っていた。
最初のコメントを投稿しよう!