消えた共通点

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「おおよその犯行時間が絞れたの。恐らく荒木殿が朝食に出すワインを調達しようとしたところを狙われたのじゃ。きっと、荒木殿の行動パターンを知ったうえで、自室からここまで来るとドカンとワインボトルで殴ったのじゃ」 「そうなると、犯人の野郎は自分が襲われるかもしれないと戦々恐々として、俺たちが自室にこもっているのを利用したことになるな」磯部さんは苛立たしげだ。 「さて、ある程度の情報は出揃ったかの。荒木殿は今朝がた、ワインを出す最中にワインボトルで犯人に殴られたわけじゃ。犯人はレインコートで返り血を防いでおる。計画的な犯行じゃ。今回はかなり分かりやすいの」 「ちょっと待って」冬美さんがストップをかける。 「今回の事件、辞書がないわ」 「なんと! 冬美さんの言うとおりじゃ。あやうく、重要なことを見落とすところじゃった。ナイスフォローじゃ」喜八郎さんが続ける。 「簡単だと言ったのは前言撤回じゃな。むしろ、状況はかなり複雑になってしもうた。ここにきて、犯人の行動パターンが変わっておる。今までの異常なまでの辞書への執着心が見当たらん。わしらは新たな謎にぶつかったわけじゃ」  沈黙があたりを包み込む。 「あのー、ここも現場保存すべきじゃないでしょうか? 写真は自分が撮りますので」 「そうじゃな、諫早殿の意見を採用じゃ。肝心なことを失念しておったわい。いかん、いかん。荒木殿の死で動揺しておる。頼むわい」  僕は黙々と写真を撮る。 「割れたワインボトル」、「乾いた血痕」そして「レインコート」。「辞書」はないので、口頭で伝えるしかない。
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