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僕は写真を撮りつつ考える。春、夏と季節順に犯行があったので、次は「秋の間」だと思い込んでいた。いつか喜八郎さんが言ったように「先入観は判断を誤らせる」。
そして二つ目の思い込み。犯人はすべての現場に辞書を置くわけではない。これが大きな謎だ。何かのメッセージではなかったのか? では、どういう意図があるのだろうか。前の二件の事件の辞書の共通点が「ことわざ辞典」であることは、喜八郎さんが書庫で指摘している。これについては他のグループにも共有すべき大きな発見だ。一歩前進といったところだろうか。
もう一点、気づいたことがある。暁、夏央はタロット占いのとおりになった――正確に言うと暁は死ぬところだった――が、荒木さんはそうではない。彼は占いの現場にはいなかった。つまり、犯人の犯行手段とタロット占いの結果は偶然に被った可能性が高まった。これで天馬さんが「吊るされた男」のようになる可能性は低くなった。では、僕はどうか。未来のカードは「悪魔」だった。由美子さんが言うには「交友関係が狭いまま」という意味だそうだ。同時に「希望がない」という意味もある。今の状況以上に、絶望に追い込まれることはないだろう。いや、そう願いたい。
「この事件のことを他のグループにも共有すべきじゃないでしょうか。きっと、みんなは荒木さんが生きていると思って探していると思います」
悪い情報ほど、早く伝えるべきだ。それに犯人は僕たちに混ざって今この瞬間も誰かを殺そうとしているかもしれない。
「そうじゃな。三日月さん、ワインセラーの鍵は荒木殿が持っておるのじゃな?」
「ええ」
「では、申し訳ないが鍵を拝借じゃ」
喜八郎さんはかがみこむと、荒木さんのポケットから鍵の束を取り出す。
「犯人がこれを盗らなかったのは幸いじゃった。これがあれば、どこへでも侵入可能になってしまう。あやうく証拠隠滅を許してしまうところじゃった。では、例のごとくここも封鎖じゃ」
僕が扉を全力で押して閉めると、喜八郎さんがガチャリと鍵をかける。
「問題はこの鍵の束を誰が持つか、じゃ。持ち主は当然、命を狙われる。まあ、これは広間に戻ってから決めればよかろう」
僕たちはみんなが待っているであろう広間に向かった。
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