秋の間

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「周平、手伝ってくれ。おい、しっかりしろ」  草次さんが僕を揺さぶる。ぐわんぐわんと景色がぶれる。 「ご、ごめん。何を手伝えばいい?」 「ひとまず、爺さんの状況確認だ。まだ間に合うかもしれない」  僕たちは急いで秋吉さんに駆け寄る。彼の首からロープを外そうとしても、うまくいかない。手汗ですべる。落ち着け。こういうときは冷静さが重要だ。 「そうだ、無理にロープをほどく必要はないんだ。要は秋吉さんが吊るされているのを防げばいいんだ」 「なるほどな。俺が爺さんの体を浮かせておくから、ゆっくりでもいい、ロープをほどいてくれ」草次さんが叫ぶ。  力仕事に自信がない僕は、おとなしく草次さんの言うとおりにする。急がず焦らず冷静に。自分に言い聞かせる。徐々に結び目がほどけてくる。  ロープをほどけきると、草次さんはゆっくりと秋吉さんの体を床におろす。首には深々としたロープの跡がついている。僕は脈を測る。ダメだ、遅かった。僕の反応から草次さんも状況を察したようだった。またしても、やられた。殺人事件が起きてしまった。  そして、今回もタロット占いのとおりになってしまった。被害者は秋吉さんだったが、天馬さんの未来のカードは「吊るされた男」だった。僕は自分の未来が「悪魔」のカードだったことを思いだした。もしかして、これも当たってしまうのだろうか。それだけはごめんだ。  しばらくすると、由美子さんが部屋に飛び込んできた。 「ど、どうなの? 間に合った?」息をきらしながら聞く。  僕は首を横に振る。由美子さんはショックのあまり、口をポカーンと開けている。  今回はロープによる絞殺だった。犯人は身近なものを凶器に使うように行動パターンが変わっている。事前に準備していたのは「春の間」で使用した睡眠薬くらいだ。手荷物検査をしても無駄だったのだ。これで凶器の面から犯人を絞り込むことは、さらに難しくなった。 「で、状況はどうじゃ? 何があったのじゃ?」喜八郎さんはズルズルと片足を引きずりながらやって来る。視線は床の上の秋吉さんに向いている。すでにある程度は見当がついているのだろう。僕たちは手短に状況を説明した。部屋に着いたら天馬さんがいたこと、秋吉さんが吊るされていたこと、ロープを外しても手遅れだったこと。  徐々に「秋の間」に人が集まってきた。まずは暁。そして冬美さん。それ以降は誰がどの順番で来たのかは記憶にない。  僕たちは意気消沈していた。 「そんな、社長、嘘だろ? 嘘だと言えよ……」磯部さんが秋吉さんの前で突っ立っていた。 「磯部殿、悲しいがこれが現実じゃ。受け入れるのじゃ。すぐには難しかろう。ゆっくりでもいいのじゃ。時間が解決してくれるじゃろう」磯部さんの肩に手を置きながら、喜八郎さんは慰める。  無理もない。磯部さんが意気投合していたのが秋吉さんだった。僕は秋吉さんが苦手だったが、このような結末は望んではいなかった。  薫さんも磯部さんと同じ反応だった。夫が殺されたのだ。当たり前だ。天馬さんにいたっては父親が殺され、自らが第一発見者になってしまった。察するに余りあった。
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