証言

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「しかし、まずは『秋の間』で起きた事件の状況整理じゃ。その方が話が早かろう」  喜八郎さんはコツコツと杖をつきながら現場を歩きまわる。 「まずは発見からの流れじゃな。悲鳴から察するに、天馬殿が発見者かの? 話せるのなら状況を説明してくれんかの」優しく言う。 「はい、大丈夫です……」  天馬さんは恐怖の影響か体を震わせていた。 「待て、天馬はとても話せる状況に見えないぞ。仮にも親父が死んだんだ、話を聞くのは後にすべきじゃないか?」草次さんが心配そうに天馬さんを見る。 「確かに、わしの配慮不足じゃった。これはいかん。では、次に現場に踏み込んだ草次さんから話を聞くとするかのう」 「おう、かまわないぜ。まず、目に入ったのは腰を抜かした天馬だった。かなりショックを受けている感じだった。天馬の視線を追うと……爺さん――つまり天馬の親父――が吊るされていたんだ」一気に話すと草次さんは深呼吸して続ける。 「天井にむき出しの梁があるだろ? あれに吊るされていたんだ。それもただ吊るされていたわけじゃあない。こう、なんといえばいいんだ。うーん、梁を起点に逆V字状に吊るされていたんだ。伝わったか?」 「ふむ、もう少し状況を詳しく聞きたいの」 「難しいな……。部屋の入口側に吊らされた爺さん、そのロープは梁の上を通って反対側、つまり窓側にもう一方のロープの端が結わえられていたんだ。これならどうだ?」 「うむ、分かりやすい説明じゃった。つまり、梁に直接ロープを結えたのではなく、梁の上を通すことで脚立がなくても吊るすことが可能なわけじゃな。それにこの方法なら、釣部殿を持ち上げるのに力が少なくて済む。女性でも犯行可能じゃな。さあ、続けるのじゃ」 「それで、後から来た周平と爺さんを助けようとした。最初はロープの結び目をほどこうとしたんだ。だが、途中からやり方を変えた。爺さんの首が絞まらないように、体を浮かせることにしたんだ。で、俺が体を浮かせている間に、周平が首元の結び目を解いたんだ。その後――」 「小僧、貴様何をやっていたんだ。もっと早く体を浮かせていれば、社長は助かったんだぞ!」磯部さんが怒鳴り散らかす。 「お前らが殺したも同然だ」冷たく言い放った。  その言葉は僕の胸に大きく突き刺さった。僕は殺人者になってしまった……。
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