証言

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「さて、天馬殿、自分の見聞きしたことをしゃべるのじゃ。暁殿の話と矛盾していても構わん。矛盾点の多くは何らかの誤解や勘違いによるものじゃ」 「はい。何があったのかお話します。最初は暁さんの言ったとおりです。なぜか――あんなに毛嫌いされていたのに――お父さんから話があるって呼び出されたんです。そして、暁さんには席を外してもらいました」 「ふむふむ。ここまでは一緒じゃな。続けるのじゃ」 「それで一瞬気を失って。気づいたら、僕は椅子に座っていて、吊られたお父さんが目の前にいたんです」 「はあ? どういうことだ?」と草次さん。 「ちょっと待って。どういうことかしら。いきなり話が飛んでいるわよ」冬美さんが続く。 「あなたたち、私の息子の言うことを信じてくれないんですか?」薫さんは怒気を含んだ声で言う。 「みなさん、落ち着きましょう。こんなことでは――」 「うるさい、若造は引っ込んどれ!」  次の瞬間、磯部さんの右ストレートが勢いよく僕の顔に直撃する。目の前に星が飛び散る。 「落ち着くのじゃ。静まるのじゃ!」  喜八郎さんが大声で制止する。小柄な喜八郎さんの体に、これほどのエネルギーがあるのかと驚いた。瞬く間にシーンと静かになる。息を吸うことさえ、はばかられた。 「落ち着くのじゃ。これでは話が進まん。さて、天馬殿の話をまとめるとこうじゃ。父親と二人きりになるために、暁殿が席を外した。二人きりになった瞬間に気を失い、目が覚めると父親が吊るされておったわけじゃな?」喜八郎さんがテキパキと進める。 「はい……。きっと、きっと僕がお父さんを殺したんだ。そうに違いない。僕をどこかに監禁してください。僕が病気で意識を失っているうちに殺してしまったんだ!」  天馬さんがヒステリックに叫ぶ。 「天馬さん、落ち着きなさい。確かにあなたには、いつの間にか意識を失う持病があるわ。でも、意識がないときに人を殺すなんて無理があるわ。正気を保ちなさいな」 「薫さんの言うとおりじゃ。天馬殿、一回落ち着くのじゃ」  そう言うと喜八郎さんは目をつむって考え込む。こういうときは人の思考を邪魔してはいけない。 「なにはともあれ、現場の検証じゃ。証拠物件を整理しなくてはならん」  そのとおりだ。証言は出そろった。内容は置いておくとして。僕はポケットからするりとスマホを取り出す。証拠写真を撮らなくては。
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