秋の間での推理

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「しかも、今回は『ことわざ辞典』が二冊じゃ。今までは一冊じゃった。これまでの事件の流れとしてはこうじゃ。『春の間』、『夏の間』の事件では一冊ずつ、荒木殿の現場にはなく、『秋の間』での事件では二冊じゃな」  僕はそれを聞いて何かが引っかかった。今までに感じていた「ことわざ辞典」という共通点以外の何かが。 「あの、『ことわざ辞典』という共通点以外にも、こう、何か別の共通点がありそうな気がするんですが」恐る恐る言う。 「ほほう。小僧、お前が撮った写真を見せろ」  そう言うが早いか磯部さんは僕の手元からスマホをひったくる。現場の証拠写真を撮るために持っていたものだ。 「『春の間』の現場写真はお前しか撮っていないからな。さて、俺がその共通点やらを暴いて見せよう」磯部さんは鼻息荒く張り切っている。  みんなが僕のスマホを中心に円形に集まる。まるで、スポーツの試合開始前に組む円陣のようだった。これで僕の単なる気のせいだった場合、また磯部さんの拳が飛んできそうだ。慌てて磯部さんから距離をとる。 「どれどれ……。『春の間』の辞典はさ行のページだな。『夏の間』がた行、『秋の間』があ行とた行だな」うーん、と磯部さんがうなる。 「さっぱり分からん。小僧の気のせいだな。時間の無駄だ。他のことを考える方がよっぽど時間を有意義に使える」  磯部さんは手に持ったスマホを僕に投げ返す。落ちそうになったスマホを何とか受け取る。 「ちょっと待ってくれ。周平の言うとおり、何かがひっかかる」暁が食ってかかる。 「お前までたわごとを言うか。いい加減にしないと――」 「磯部殿、待つのじゃ。二人の言うとおりじゃ。わしも何かがひっかかる。そうじゃな、のどに魚の小骨が刺さったような感じじゃ。もう少し時間が欲しい」喜八郎さんが制止する。  僕は改めてスマホをみんなの前に差し出す。「三人寄れば文殊の知恵」、ここには三人以上いる。何かいい考えが出るに違いない。
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