秋の間での推理

4/4
前へ
/138ページ
次へ
「勘違いだったらすまないが。それぞれの間にあった『ことわざ辞典』、どれにも春夏秋冬の文字が入っていることわざがないか? 『春の間』が『眠暁を覚えず』、『夏の間』が『飛んで火にいるの虫』、『秋の間』が『の日は釣瓶落とし』と『天高く馬肥ゆる』。これは偶然か?」暁が指摘する。  そうか、僕が感じていた共通点はこれだったのか。 「おお、暁殿、いい着眼点じゃ。確かに偶然で片づけるわけにはいかないのう。もしかしたら、犯人が『ことわざ辞典』を置いていった意図はそこにあるかもしれん。しかし、犯人にメリットがあるかが謎じゃ。これでは『次は冬の間で事件を起こす』と宣言しているようなものじゃ。わしらが警戒すれば犯行はうまくいかん。このタイミングで気づいた意義は非常に大きい」喜八郎さんは続ける。 「こうなれば、これ以上の惨劇が起こらないように『冬の間』にも鍵をかけるのが無難じゃろう。幸い、ここに荒木殿が持っていた鍵の束がある」喜八郎さんが鍵の束をジャラジャラ鳴らす。 「さて、『冬の間』を閉じることは決まったが、問題は『この鍵の束を誰が持つか』じゃ。当然、犯人は鍵を狙って持ち主を襲ってくる可能性がある。まあ、わしが持つのが無難じゃろう」 「なんでですの? ここは力のある若い人が持つべきじゃないかしら。仮に犯人が襲ってきたら、喜八郎さんなんてあっさりねじ伏せられるわよ」冬美さんが冷静に言う。 「確かに一理ある。しかし、わしは犯人から十分に恨みを買っておる。犯人に迫り過ぎたからの。それに若い者には未来がある。わざわざ危険を冒させる理由はあるまいて」 「待ってください。僕が持ちます」  僕は立候補した。みんなが僕を信じられないという目でみる。今回の場合、火中の栗を拾うのは文字通り命懸けだ。 「周平、爺さんの言うとおりだ。わざわざ危険を冒す必要はない」と暁。 「いや、僕には考えがあるんだ。僕はスマホで『春の間』の物的証拠の写真を撮った唯一の人物だ。ワインセラーでの荒木さんの現場のときも、僕しか証拠写真を撮っていない。すでに犯人に襲われる可能性が高い僕が持てば、リスクを集中させることができる。下手に数人が持つよりこの方がいいよ。だってみんなが僕を守れば、犯人は手出しができないから」 「ふむ、実に論理的じゃ。異議があるものはおるかの?」  喜八郎さんの問いに対して、みんな沈黙する。 「では、決定じゃな」 ce6a0273-8142-4a3b-b62f-99dd0a5e40e0
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

77人が本棚に入れています
本棚に追加